もう三ヶ月前になってしまいました。
インターネットを通じての通信講座で蕎麦知識が得られる
「蕎麦Web検定大学」の課外授業があり、受講しました。
蕎麦Web検定大学は、検定と名はついていますが、
京都検定や漢字検定のような難しいものではなく、
蕎麦の一部だけに照らされた光で
偏った方向に行ってしまっている知識を
もっと広く深く知ってもらうことを目的の一つとしている
とても興味深い講座なのですが、
考えようによっちゃオタク気味の人に人気の、
(良い意味での)変な講座です。
写真家であり編集者であり随筆家でありと言う片山虎之介さん。
名前は厳ついのですがとても優しげな方で、
蕎麦については先生と呼ばれている方が責任編集をされているので、
テキストは読み物としてもすばらしく、
送られてくるのが毎回楽しみなのですが、
それ以上に楽しみなのが課外授業として開催される講座なのです。
まだスタートして間もない大学ですので
今までに開催された講座は2つ。
妙高に行って在来種の畑を見学し、
在来種「こそば」を打つ「こそば亭」に行って店主の話を聞き、
ゆで時間違いの蕎麦をテイスティング。
興味は尽きないけど、やっぱ、オタッキーですね。
ま、それが記念すべき第一回。
そして三ヶ月前に開催された第二回が、
「こそば亭」と岐阜下呂にある「仲佐」の蕎麦を比べると言う講座。
これ、だから?、と、どうってこと無いように思えるでしょ?
妙高と下呂のお店を休ませて東京まで出てこさせて
打ち慣れて無いどころか初めての場所で大勢の前で、
いつものように打つ蕎麦打ちを披露して、
業務用の火力がないところで蕎麦を茹で
受講者に食べてもらう。
…って、こんなこと、片山先生以外できないですよ。
蕎麦好きはそんなことすぐにわかります。
だから、受講希望者はあっと言う間に定員を超えそうになり、
重い石臼で手挽きする「仲佐」さんの限界に合わせての打ち切り。
遠方から夫婦で飛行機で駆けつけたという人もあるとか。
せいろ一枚がいったいいくらになるのでしょう?
でもわかります。金額じゃないんですよ。
それだけの価値があると言うことなんですよ。
ま、そんなこと言いつつ、
私は歩いて数分のところだったので
とっても助かったんですけどね。
「仲佐」は、私が行ってみたいお店のナンバーワン。
何年も前からあこがれ続けているお店。
チャンスがあればと思いながらも
下呂って気持ち的になんかね、台湾より遠いのよ。
蕎麦を育て、その日打つ蕎麦粉は
朝早くから機械に頼らず重い石臼を手で挽く。
そして打つ姿がすごいらしい。
もうそれだけで、
そのストイックさに、職人気質に、惚れちゃうわけ。
それが目の前で繰り広げられようとしているんだから
どきどきワクワクよ。
仲佐さんはつなぎが3割。
あえて手挽きにされている方が3割と言うのは
ちょっと意外でした。
打ち始めてまず驚いたのは、
大の男4~5人で台を押さえこね鉢を押さえ。
それも必死で。
仲佐さんの水まわしからこねの力がすごいんですよ。
加水を押さえた蕎麦粉を全身の力を込めて力一杯まとめ、
と言うのでは表現が甘すぎる、
格闘する、と言うのが近い、戦いを観るようで圧倒される。
後ろから見学させてもらった私は、その背中からみなぎる力と、
つま先立ちになって体重をかける姿に鳥肌。
そうしてまとまった蕎麦玉は更に練り上げられ、
常につま先立ちで、顔を真っ赤にしながら時間をかけて、
と言うより時間を気にせず、納得がいくまで捏ね、
美しい玉に仕上げます。
日本刀のような切れ味の包丁で、丁寧に切られ、
すべての作業が終わるまで、圧倒され続けの仲佐劇場。
息するのを忘れたように、終わったときには思わず深呼吸。
東京まで持ち込まれた、お店で使っているザルと猪口。
それだけで仲佐に行ったような気持ちになれます。
3割つなぎが入っているなんて信じられない、
滑らかで心地の良い喉越し。
潔い切り角が舌をこれまた心地よく刺激して
蕎麦を手繰るのが楽しくて仕方ない。
極端に押さえられた加水が、
食べ終わるまで蕎麦をダレさせない。
なぜ3割なのか。
なぜ十割じゃないのか。
なぜ手挽きなのか。
手挽きと機械はどう違うのか。
石臼はどんなのを使ってるのか。
つなぎはどこの小麦粉を使ってるのか。
加水率は何パーセントなのか。
打つ時間はいつのあんなにかかるのか。
ゆで時間は。
次々に出る質問に、時にはにかみ時に熱くなり。
一つ一つに丁寧に答える仲佐さん。
誠実だからこそ意地悪に聞こえる答えもあり。
けれど、最終的結論はいつも、
「美味しくしようと思ったらそうなった。」
「美味しいと思ってくれる人がいればそれでいいんです。」
「美味しくないと思う人がいても良いんです。
でもこれが私の蕎麦なんです。
それを美味しいと思ってくれる人がいればそれで良いんです。」
目から鱗の講座でした。仲佐劇場でした。
時間なんて気にしなくても、切るスピードを気にしなくても、
美味しくなれば良いのよね。
伸すのが楽しくて、切るのが楽しくて、
さっさと仕上げるのがもったいなくて、
時間のかかる私、は聞いていて嬉しくなった。
ま、元々の技術レベルが雲泥の差に違うけどさ。
楽しかったし勉強になったし。
蕎麦Web検定大学さん、本当にありがとうございました。
次回の企画も楽しみにしています♪
最後に、
仲佐さんの言葉。
「ここではこれがいっぱいでしたが
本当の僕の蕎麦はもっと違うんです。
お店に来ていただければわかります。
是非来てください!」
うーむ。
行きたい気持ちが更に強くなってしまったじゃないか!